「自分が元気なうちに子どもへ土地や建物を譲っておきたい」などと、親族間での不動産取引を考えている方もいるのではないでしょうか。その際に注意したいのが、「みなし贈与」です。

みなし贈与が発生すると贈与税が課されることになり、思わぬ納税が発生する可能性があるため、注意が必要です。

この記事では、みなし贈与の概要や対象となり得るケースなどを解説するとともに、不動産取引がみなし贈与にならないようにするための方法を紹介します。

「みなし贈与」とは?

そもそも「贈与」は、自分の財産を無償で贈る意思表示をし、相手がそれを承諾することで成立する行為です。これに対し「みなし贈与」とは、贈与の意図がなくても、結果的に贈与とみなされる行為を指します。

みなし贈与は課税対象になる

相続税法には、著しく低い価額の対価または対価を支払わないで利益を得た場合、利益を得た人は贈与を受けたとみなす旨が規定されています。

通常の贈与と同じく、みなし贈与も贈与税の課税対象となるため、利益を得た人(贈与を受けた人)は贈与税を申告・納税しなければなりません。みなし贈与の対象となることに気付かず支払いが漏れると、税務署から指摘を受けてしまうため注意が必要です。

特に、親族間の不動産取引において贈与の認識がなく、あとから贈与税が課されて驚くといったことは珍しくありません。

みなし贈与の規定がある理由

みなし贈与の規定は、贈与税の回避行為を防止するために存在します。

例えば、親が子どもに土地を譲りたいと考えている場合、贈与税を回避するために贈与ではなく低額で土地を売却することがあるかもしれません。そのような行為もみなし贈与として贈与税の課税対象にすることで、税逃れを防いでいます。

親から子へ土地を名義変更する方法|生前贈与・相続時の税金や節税方法も

みなし贈与の対象となる主なケース

みなし贈与の対象となる主なケース

みなし贈与だと判定されやすいケースの例は、以下のとおりです。

  • 不動産を無償譲渡・低額売買する
  • 株式を無償譲渡・低額売買する
  • 債務を免除する
  • 銀行預金を他人の口座に移動する
  • 生命保険金や個人年金を契約者本人以外が受け取る
  • 離婚時の財産分与に偏りがある
  • 借金・納税の肩代わりをする

不動産取引では低額で売買することだけでなく、「親が建てた家を子どもの名義にする」といった行為も、みなし贈与の対象となる可能性があります。

また「子どもに貸したお金の返済を免除する」などの債務免除行為も、みなし贈与に該当する場合があります。これは、免除された金額分が実質的な経済的利益として評価されるためです。

銀行預金の移動に関して、一時的に家族がお金を預かる行為は問題ありません。ただし、預かったお金が長期間返却されない場合は、贈与が行われたとみなされる可能性があります。

不動産取引でみなし贈与と判断される基準

前提として、個々のケースがみなし贈与に該当するかどうかは、管轄の税務署の判断によります。その際にポイントとなるのは、「対象者が経済的な利益を受けているか」という点です。

土地の売買では、一般的に取引金額が時価の80%を下回ると、みなし贈与に該当しやすいといわれています。例えば、時価が2,000万円の土地を500万円で売買取引した場合、差額の1,500万円が贈与されたとみなされる可能性があります。

なお、「80%」は税務署の正式な基準ではありません。最終的には個別のケースにより判断が異なる可能性はありますが、時価より低額で取引する合理的な理由がない場合は注意が必要です。

【参考】基礎控除の範囲内なら贈与税の申告は不要

贈与税には、年間110万円までの基礎控除があります。1月1日~12月31日の1年間の贈与額が110万円を超えなければ、贈与税の申告は不要です。したがって、みなし贈与に該当する行為が行われたとしても、取引金額によっては申告・納税義務がありません。

贈与税の基礎控除を活用し、保有する財産を少しずつ贈与していく方法は「暦年贈与」と呼ばれます。ただし、不動産は登記手続きなどの手間・費用がかかるため、土地や建物の暦年贈与はあまり行われていないのが現状です。

参考:贈与税がかかる場合|国税庁

不動産取引がみなし贈与にならないようにする方法

不動産取引がみなし贈与にならないようにする方法

みなし贈与に該当する取引をしたあとに、該当しないように対策をするのは困難です。そのため、事前にポイントを理解し、みなし贈与と判断されない取引をする必要があります。

ここでは、不動産取引がみなし贈与と評価されないための方法を見てみましょう。

適切な売買価格を設定する

親族間の不動産売買でも、市場の相場に近い金額で取引すれば、基本的には問題視されないでしょう。

先述のとおり、実務上は「時価の80%」が基準となっているため、取引金額は時価の80%を超えるようにするとよいかもしれません。仮に、時価が2,000万円の土地なら、1,600万円以上を目安にする計算となります。

土地の売買価格の一般的な決め方については、以下の記事を参考にしてください。

土地の売買価格の決め方は?基準価格の調べ方や高値で売買するポイント

贈与税の非課税特例や控除を利用する

贈与税には、さまざまな非課税特例や控除制度が存在します。これらの制度を利用して期限までに贈与税を申告すれば、みなし贈与と判断されることなく、贈与税の節税にもつながるでしょう。

以下で、非課税特例や控除制度のうち、不動産取引に関するものを紹介します。

  • 相続時精算課税の制度

相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母や祖父母などから、18歳以上の子や孫などに対して財産を贈与した場合に利用できるものです。

この制度を利用することで、110万円の基礎控除に加え、2,500万円までの特別控除を受けられます。そして、控除額を超えた部分には、贈与税として一律20%の税率がかけられます。

制度を利用する場合は、贈与を受けた翌年2月1日から3月15日までの間に「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要です。

参考:相続時精算課税の選択|国税庁

祖父母の土地を孫に相続させる方法については、以下の記事でも解説しているので、併せてご覧ください。

祖父や祖母の土地を孫が相続できる?孫名義にする方法と注意点

  • 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)

贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の不動産(または居住用の不動産の購入資金)を贈与した場合に利用できる制度です。

贈与税の申告をすることで、110万円の基礎控除に加え、2,000万円までの配偶者控除を受けられます。

参考:夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁

  • 住宅取得等資金の贈与の非課税特例

住宅取得等資金の贈与の非課税特例は、父母や祖父母などから18歳以上の子や孫などに対し、住宅の新築・取得・増改築等にかかる資金を贈与した場合に利用できる制度です。

省エネ等の住宅の場合は1,000万円まで、その他の住宅の場合は500万円までの贈与が非課税となります。

参考:直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁

専門家に相談する

みなし贈与と判断されてしまうと、通常の贈与税に加えて、加算税や延滞税といったペナルティが発生する可能性があります。これらは、申告期限までに贈与税を申告・納付しなかった場合や、贈与税の申告に不備があった場合に発生する税金です。
不動産取引ではまとまったお金が動くため、不動産や相続の専門家に事前に相談し、みなし贈与に該当するかどうかを確認しておくと安心です。先述した適切な売買価格についても、専門家に相談すれば適切な金額を設定できるでしょう。

まとめ

親族間での不動産取引などにおいては、当事者に贈与の意図がなくても、みなし贈与と判定されてしまうことがあります。不動産を無償で譲渡したり、低額で売買しようとしたりしている方は注意しましょう。

不動産会社の一誠商事には、相続の専門家である「認定相続コンサルタント」が多数在籍しています。みなし贈与に該当するかどうかの判定を含め、相続に関する幅広いアドバイスにより、お悩みを解決可能です。些細な疑問でも、まずはお気軽にご相談ください。

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記事の監修者:一誠商事編集部

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